キテキ

はづき真理のブログ

『鳩のおとむらい』感想① 「分光する首」篇

『鳩のおとむらい 鳩ほがらかアンソロジー』の自作をのぞく全作品感想、その一です。

寄稿のきっかけについてはこちら。

自分の読書傾向は、と書こうとすれば最近は年に二十冊くらいしか読んでないんで最近ほんと読めなくて、みたいな話をはじめたくなってしまうが、ベースは海外児童文学、国内ヤングアダルト、国内新本格ミステリあたり。近ごろは横だおしで悪役令嬢/令息や嫌われからの愛され系Web投稿小説を読んでる時間がもっともながい。SFや詩歌にはほとんど親しんでおらず、「読める」感覚は自分でもあまりない。そんな人間の感想です。章分けに沿っていきます。

「分光する首」日常系ードバトの章
あらためて見渡すと、日常系といってもすこしふしぎ、あるいはぶきみな話もあります。さらには、関連のない独立した作品が、編者によりこういった順に配置されたことで、うっすらと繋がりをたどれるようにも感じられます。日常の鳩。日常に入り込んでいる鳩。日常を引き起こす鳩。日常であったのか定かでない鳩。そういう日常である鳩。鳩鳩鳩。

世界の真実 闇雲ねね
いきなり好き。この巻頭作のいきおいに、読みながらめちゃくちゃ笑顔になった。これは巻頭作品ですわ……という一気呵成の威勢のよさ。鳩アンソロジー、最高の幕開けです。死んでも殺す!

ハトのコンパス Haru
自分は絵本の翻訳が「ひとまねこざる」だった世代で、ジョージがつるつる食べてしまうスパゲティは「うどん」だった。そんなわけでアニメ「おさるのジョージ」への知見がまったくない状態で、おもしろく読んだ。ジョージ世界にハトいるんだ。そして指摘されているとおり、多くの人はハトに無関心もしくは嫌いよりの無関心ではないか、と思う。友人の子も「おさるのジョージ」アニメはみているようだ。コンパス、知っているかな。ハトは好印象かな。

エサやりおじさん考 暴力と破滅の運び手
ハトにエサやってる人をリアルで見たことがない。いやたぶん見たことくらいはある、でも記憶に残っていない。だからおじさん(パ)VSおじさん(不)の目撃談、いいなーと思う。いや、いいかな? あほくさ、って書かれてるけどさ。しかし複数人いるかもしれない鳩連れおじさんはすごくいいじゃないか。自分はぎゃあといって避けちゃう通行人だと思うけど。

鳩を弔うための十二日間 朝本箍
SNSを見ていて今回のアンソロジー作品募集を知ったよ、それまで縁はなかったのだけど寄稿をかんがえたよ、ということが書かれた冒頭二段落のことばの選択を見てほしい。自分は寄稿にいたったいきさつを別途このブログ記事にしたが、本作はそれ自体をどこか静謐な、いっそ格調高い作品に仕上げている。すてきです。

はばたき 蜂本みさ
ひとりの男の孤独な観察と気づきと奮闘、そして忘却。冒頭で映画のなかの鳩のはばたきにふれており、本作自体が短い映像作品のように頭に浮かんでいます。ラストのくしゃみは、どこかで鳩がはばたいたから?

鳩の成る木 うめおかか
一瞬の重みとずっとの温みを想像してしまう。あと匂い。鳩の成る木にはなりたくないが、鳩好きなひとが鳩に好かれているのなら、よそからみてぎょっとする異様なありさまであっても、じつはとても幸福な光景ではないか。たぶんフンするときは離れてくれる。

鳩を刺す 藤和
本アンソロジー中ぶっちぎりで幼気な鳩である。自分にとって鳩に最接近するときは歩行中に進行方向を妨害されているときだが、こんなふうに公園のベンチで本を読んでいるときに足元にやってこられたら、ひょっとするといとおしく思うかもしれない。からの、猫。自分は鳩と猫なら猫のほうがすきなので、本作の「僕」に共感はできないのだが、しかし小首をかしげてる鳩の刺繍とは、あざといくらいいとけない。うっかり悲しくなってしまいそうだ。

まーくん 丼哲
メッセージアプリ画面風の紙面効果も心憎い作品。ここはまーくんの元恋人が語る、流暢な日本語を話す思い出の鳩さんに着目したいところだが、一読、自分の下世話な頭がはじきだしたことばは「寝取られ?」だった。申し訳ない。でもたぶんまーくんもそう思ったんじゃないか。もっともらしいこと言いやがって、このハンサムな先輩とやらに乗り換えたんだろちくしょうと、元恋人を罵っているのではないか。そういうところだぞ、まーくん。たぶん元恋人さんはこの時点ではべつにクモの先輩とどうこうなってない。まーくんがフラれた理由はちゃんと書いてあるから、しっかり読んで、受け止めよう? ところで鳩アンソロジーの本章にはこのあと「まあくん」が出てくる。

鳩と弔い 小暮 船
遠距離恋愛の負担となにげない行動が、彼女に鳩を追いかけ回させたのか。思い返してこじつけているだけで、じつはぜんぜん関係なかったのか。別れたひとが鳩とむすびついてしまっている。鳩はわりとどこにでもいるので、彼はその都度恋を弔うのだろうか。京都の大学生にたいしてなかなか辛辣な考察があり、おもしろかった。自分は京都の大学生を見知っていないのだけれど、京都にあこがれはあるので、なんか納得してしまう。

鳩、ホシに帰る。 菬人
どういう意味だろう、というタイトルと冒頭段落から、思いもよらない展開に。この町の生き字引、競馬以外ではけっこう有能なのかもしれないぞ。警部補はホシに気づかないままなのだろうか。

セサミ・ストリート おだやか希穏
コンクリートに入ったヒビが周囲をざらつかせ、読み終えたあともそのヒビがどんどん広がっていくような読後感。おだやかでない…… と巻末の作者紹介をみて、うん。と思った。鳩濃度は本アンソロジー中でも薄いようでいて、むしろチャバネ(ひぃ)の印象が強いが、しかしチャバネはハトのイメージとかけ合わされてゴマが飛んでこのタイトルで……おだやかでない。おだやかでありたい。

殻に篭って 加藤明矢
この友人は気遣いの方向が大概無神経な気がするが(卵をどうすりゃええんじゃ)、喪失で損なわれてしまった世界にはこのズレがふさわしいかもしれない。愛犬の骨壺と、まだ生まれていない鳩の卵のイメージが混濁する。かたく乾いたもののなかに、どろりとぬるいなにかがある。喪失はつらい。たいていの場合、つらいままだ。

Letter to the sky. 斉藤鳩
イラスト作品。モノクロと思いきや、鳩の首の構造色がうつくしい。人物の服装は聖職者に見える。

主よ、人の望みの喜びよ 瀬見
連彦と燐の関係についてかんがえている。片方がですますでしゃべるきょうだい関係、連彦・兄と燐・弟のイメージだ。話は不穏な死の誘惑がつきまとい、ホラーやサイキックアクションに発展しそうな感じもする。自分は柘植きょうだいのこれまでとこれからが知りたいです。

仏様のこども 皐月まう
「仏様をまあるくこどもっぽくした」紡くん、ふくふくしたほっぺの紡くん、なのに語られる思い出はどこか陰惨で、荒廃したものを感じる。つぶされた卵のどろりとしたねばつきを思って顔をしかめてしまうけれど、でも、紡くんは鳩たちみんなを連れていったんだろうか。そこはあかるいところだろうか。

Columba livia 中澤一棋
なんかすごいディズニーシー文学だった。めちゃおもしろいが、その豊かさを感想に出力できない。めちゃおもしろい。おもしろさの余勢をかってWikipedia日本語版「リウィア・ドルシッラ」の項も読みました。

Un dialogue avec les pigeons 水門なみ
詩。パリの空のしたでも鳩は鳩。「雨で濡れそぼった落ち葉と」ではじまる連は声に出して読みたい。

無疆の鳩 依鳩 噤
エッセイ調の小説めいた散文詩かもしれない。リズムが小気味よくて、朗読したい。

鳩2000 児島成
ストレンジャーな気分になる異国の空港で、恋人と思しきアイリと搭乗を待っている状況、だと思ったのだが、なんか、悪夢的に現実がぶよぶよになってしまって、どうしろっていうんだ。本作の語り手が「まあくん」である。たぶん。そういう名で呼ばれているようだ、というだけで、ちがうかもしれない。どうすればいいんだ。 (12月1日追記:作者のお名前漢字が間違っていました……! 大変失礼致しました。)

空に消える伝書鳩の話 望月一星
煙にまかれているようでいて、あかるい空にぱっと解放されるような心地になる語り。

断片 小林ひふみ
イラスト作品。幼子のまるみがいとおしい。

鳩の巣原理 淡中 圏
算数の時代から数学には向いていない自分です。学生のとき大学図書館で配架のアルバイトをしていて、それが人生でもっとも数学書に触れてた時期だろう。あの図書館の2階に、解放されない鳩たちが居心地悪くひしめいていることを考えて、南無、という気持ちになった。

ジョナサン 織戸久貴
講談社青い鳥文庫のおもむき、と読んでいって、ミステリーランドのほうか~! となった。学校側が悪い。露木さんは正しい。

好書好日 鳩ブックス編 鯨井久志
ありそ~~というにまにまが止まらなかった。ありそ~~とはいったがまことしやかに嘘八百なんである、でも全体としてありそう、なのだ。Web記事っぽいフォントになっているのもよい。

鳩の感謝状 小野繙
有害なノリでルサンチマンを炸裂させているようでいて、じつは切実な感じがする。人の話を笑うやつらは滅せ。おまえらには鳩の感謝状は永遠に手にはいらない。ざまあ。

「分光する首」章は以上である。バラバラの作品なのに、つい作品にまたがった感想も浮かんできた。これは編集の妙であると思う。

そして感想とは結局自分の話をすることであるなあ……と思っている。のこりの章もぼちぼちペースで書きます。

その二はこちら。