キテキ

はづき真理のブログ

リー・アンダーツ『母がゼロになるまで 介護ではなく手助けをした2年間のはなし』

本書は「教材」ではない。

本書は「教材」ではないから、こういう対応を試みたら、こういう効果があって、ああよかった万事めでたし、という物語では、ありません。

風呂に入らないのも、ゴミ屋敷になるのも、お金を借りまくるのも、支援を拒否するのも、母なりの訳があったーー。"困っていた母" と "困らされた私" が格闘した、2年間の生の記録。 寺尾紗穂さん推薦。

じつをいえば、思っていた内容ではなかったのです。装画の作家さん・小林紗織 / 小指の旧Twitterで本書を知って*1、出版社のサイトの上記紹介を読んで、わたしがとっさに期待してしまったのは、この“母”に似たところがありそうな自分の行く末にとって、なにがしかのしるべになるのでは、ということだった。

自分はすぐ入浴をサボる。つい最近こういうことも言っている。

そういえばすこしまえに、毎日入浴する人は鬱病リスクが低い、たらいう記事を読んだのですが、毎日入浴する環境を保つための家事労働をする同居家族の有無も知りたくなりました。

自分は現在へやが段ボールだらけでもあまり気にしてない。きれいな理想のへやは脳内にあるけれど、その過程のつもりでいつまでも散らかしている。

自分はひとからお金を借りたことこそないけど、自分のお金は無頓着にあるだけ使ってしまう。ぶっちゃけ「自分のお金」は、「自分名義のお金」というだけで、すでにわたし自身が賃労働で得たものではない。で、あと何回か国民年金(年額)を支払ったら尽きそうだと最近気がついて、え、ヤバ、と、ものすごい軽薄な危機感を持った。ヤバいが、なんとかなるんじゃないかな。週に数回の賃労働を家の近くで見つけるとか…… そのうちに…… さいわい生活費は自分で支払う必要ないんだし…… そう自分は人生のすべてを親と同居していて、家賃水道光熱費を自分でまかなった経験がないのである。これはうっすらと、自分と他人(親)の金の区別がついていないような危険性を自分に付与する環境である、と思う。自分のお金で生きていない。だから「お金を借りたことがない」も厳密にはびみょうなのでは? 自分は親から借りっぱなしで生きているのでは? とも思う。ただしこの思考は人のお金で生きてなにが悪い、という自分の思いを揺るがすほどではない。だいたい社会は「人の(この場合の人は端的にいって“わたしの”くらいの怨念がある)金で生きる」ことには憎悪を向けがちで、そういう人は「(病気や障害などで)自分がそんな立場になったらいさぎよく死ぬ」くらいの鼻息の荒さだったりする。出来ないくせに。なんか話がずれそうだ。とりあえず、わたしはかなり強固に親に対する自分の価値を信じているので、人(親)の金で生きることにほとんど後ろめたさがないんである。ただやっぱり、世間体とか、自己責任論とか、そういう揺さぶりがまったく働かないわけではないので、たまには殊勝な気分になってみるのです。あと「親にとって自分の価値を信じている」時点で、やはり「だれかの役にたっていること」を「価値」としている、そういう問題点はあります。

ちょくちょく話が飛躍しそうですが、とにかく、紹介文を読んで共感を寄せたのは"困っていた母" と "困らされた私" の前者のほうでした。なので、そういう“困っていた母”の状況になんらかの改善が齎され、ぶじに看取られるみたいな展開を、うっかり期待してしまったのです。

現実は、そうではありませんでした。

おそらくは、老いるまえから福祉の手助けが必要な特性を持っていたかもしれない筆者の母の、彼女なりの理屈でもって営まれた生活は、筆者のあたうかぎりの努力の大部分を踏みつぶし、彼女自身の健康を損ね続け、そして終わってしまった。

なんということでしょう。“母”側のつもりで読んだ自分にとっては、なかなかのダメージでした。

しかし筆者の正直さ、誠実さで綴られた格闘の日々は、父や祖母を送った自分と響きあう部分もあり、こういう個人の語りが、今後もっともっと必要となってくるのではないかと思います。

あと筆者と母はそうならなかったけど、親を法的に「捨てる」選択肢は、用意されてほしいですよね。いまこの国の政治は、介護を家の、家族のなかで完結させようという方向に熱心です。わたし自身は家族との関係は良好なほうですが、その立場であっても、自民党改憲草案*2第二十四条の新設項目「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」は最悪で、マジありえないキモい。みたいな語彙で罵るしかできません。

子育ても介護も社会で行うべきものだと思っています。それがどういうかたちなのか、具体的な像はうまく描けないけども……

とりあえず、きょうはもう疲れてしまったのでお風呂をサボりそうです。


*1:

*2:このページからおぞましいPDFが見られますhttps://constitution.jimin.jp/document/draft/