キテキ

はづき真理のブログ

『鳩のおとむらい』感想②「首振りの極意」篇

『鳩のおとむらい 鳩ほがらかアンソロジー』の自作をのぞく全作品感想、その二です。

寄稿のきっかけについてはこちら。

自分の読書傾向は、と書こうとすれば最近は年に二十冊くらいしか読んでないんで最近ほんと読めなくて、みたいな話をはじめたくなってしまうが、ベースは海外児童文学、国内ヤングアダルト、国内新本格ミステリあたり。近ごろは横だおしで悪役令嬢/令息や嫌われからの愛され系Web投稿小説を読んでる時間がもっともながい。SFや詩歌にはほとんど親しんでおらず、「読める」感覚は自分でもあまりない。そんな人間の感想です。章分けに沿っていきます。

その一はこちら。


「首振りの極意」日常系ードバト以外
引きつづき、日常なのだけれどもちょっと奇妙な話も奇妙なままで交じりあう章である。日常ってそういうものですからね。

現代川柳連作『鳩芝居』 橋元デジタル
商店街のとなりの家電量販店、いや冒険ファンタジーかもしれないとなり、最終的に文具売り場を併設した本屋だった気がしてきた。定型詩、それも連作、の読みにとんと不慣れなので、こんなぼわ~んとした感想になる。連作なので切り出すのもどうなのだろう、と思いつつ、いちばん好きな句は「皆勤賞の鳩だけ売れる」です。

鳩はいる、鳩はいない かつエッグ
白くくもらない湯気でむこうの景色がゆらぐような、非在の鳩の輪郭を思う。そしてオサムくんが、子が見たハトには現し身があったはず。それぞれに、それぞれだけのハトがいる。

鳩話五選 はづき真理
はい、ここに自分の作品が入ります。ふへへ。

飛ばない伝書鳩に託した三つの願い 結城熊雄
小説、短歌、エッセイ、の連作で構成されている作品。こんな寿司屋はいやだ! と逃げたさきでも寿司屋に回帰してしまい、そんなトリプルプレー(未遂)はいやだ! と駆け抜けました。我ながら発想が安直ですが、つげ義春作画がハマりそう。

チョウショウバト でんちゃ好き男くん
知らないハトの名だったので、弔鐘、かと思った。自分の生活圏外に旅行にいくと、世界と自分との境界がクリアになる。その感覚を思い出しながら読みました。

日本の鳩 由
イラスト作品。日本列島で観測できるハト七種がカラーで見られます。七種もいるんだ。鳥類の絵で、正面立位はあまりみない気がする。堂々たるカワラバト(ドバト)の正面図。あと見返るキンバトがかわいいです。胴体で羽だけぱっきり緑なのおしゃれだね。

コバトンたちに気をつけて 稲田一声
コバトンのお膝元埼玉県に住んでいますが、シラコバトがモチーフとは知らなかった。県鳥だったの? 見たことないな。コバトンの着ぐるみには一度会った気がしているが、記憶違いかもしれない。これを機にコバトンに興味がわいてしまった、せっかく警告されているのにこれではコバトンの思うつぼである。いやコバトンが増殖させられている側であるのならそこにコバトンの意思はないのでは…… 埼玉県庁のサイトはコバトンじゃなかったシラコバトの目撃情報を集めています。(本当)

鳩サブレー 比良岡美紀
その場では当然のように共有されている約束事が、なんか嫌、としかいえないときがある。なんか嫌、が、きちんとほどけた話。鳩サブレーはおいしいし、缶もなんていうか、強い。

ンョジピ 小中居かなこ
平和泥棒! そんな、うそだろう? ピトアイダたちの裏をかいて、やられたふりしてまた現れてくれるんだろう? そうだと言ってよ、平和泥棒! とまあ、こんな感じに本作が好きです。こんなにいとおしい尻着地(ぽよん)があるか? あと「左隣のグラマラス」の語感がいい。声に出して読みたい「左隣のグラマラス」。

マジシャンズ・ハット 入ヶ岳愁
落魄のマジシャンは、ひょっとしたらどこかで陽気に生きているのかもしれない。そう思わせてくれる最後の濁流のような鳩鳩鳩。残された卵のぬくみをそっと抱きしめたいお話。なお、嶋さんの名を鳩と見間違えることが二回ほどありました。

鳩の弔い/鳩の転生 七森環
引退した暗黒舞踏家が自身の名にちなんで詠んだ、という十首の短歌連作。こういう(適切な語かやや心許ないが)作中作が可能なんだ、と新鮮だった。舞踏表現する身体を弔って、言の葉で踊り羽ばたきだしたパロマが新たな空で自由でありますように。

歯と母と 阿下潮
ハトハハト。故人の骨が生前怖がっていたものに変じると書くと、不吉なイメージになるだろうか。でもそんな感じはなく、乾いたあっけなさがむしろ晴れやかな気さえする。むしろそのまえの焼き鳥がなんか不穏だ。

はとのなかの 入谷匙
両脇からふっくらとした圧に挟まれて、そのまま運ばれてしまう不安定でちょっと楽しい感触を思った。自分もすこし、はいってみたい……。ここは鳩のなかの世界。道ばたでみる鳩も、世界を呑んだ鳩なのかもしれない。いまの自分の生活圏に教会はないが、軽井沢で見た木々のなかの木造っぽい教会を思いだしていました。それこそどなたでもどうぞ、的な但し書きが入り口にあって、でもそのときはだれもいなくて、しん、としていた。

 間敷
鳩がテーマのアンソロジーに潔いタイトル、そして語り手の「わたし」とは。そうだな、人間って鳩にくらべれば縦に長い生き物だよね。キジヤマさんの日々の暮らしをたんたんと報告してほしさある。

紅白 探偵とホットケーキ
ウサギの名を持つマジシャンっぽいみための何者かの生業が語られる。二段組の見開き右ページにおさまる長さで、切れ味がよい。切ってない、燃してるけど。悪党じゃないつもりだけれど、背中には気をつけます。

鳩とパン屑のパターン 子の字
イラスト作品。作者紹介を読むまでパン屑はどれかな、と思っていたが、あの袋をとめるアレはすぐアレとわかる。こういう連続パターンのテキスタイルあったらほしいな。

西へのタイマー 宇智田
前半の抒情的なふんいきから一転、後半の淡白な仕事ぶりに「そんなぁ……」となった。ちょっとかなしい。でもかれらの交わすことばから、かれらはとても豊かな「生」を生きてきたんじゃないかって気もする。

鳩への償い 海屋敷こるり
どことなく気弱そうな彼氏とざっくばらんな彼女のカップル、どう展開するのかまったく想像のつかないお話だった。びっくりした。起こったことは文字通り世界規模でとんでもないのですが、大切なことを打ち明けられなくてどうしようもなくなってしまった明彦とこばとのおはなし、と、こじんまり切なげに紹介することも可能です。

ほーほー・ぱっぽ・ぼー 志村麦
へえ配信文化には親しんでないからな、伝書鳩、鳩行為っていうのかぁと読んでいったらすごく好きな感じに展開して、ひょっとしてその呼び名からフィクションなのかしらと検索したらそれは本当だった。最初に現れる言鳩の絶妙なさりげなさと方々棒ひっかかり、そこからネットワーク繰る繰るゥ空間がほーほー・ぱっぽ・ぼーに埋め尽くされる過程が実に美しい。

白く底光りのする 瀬戸千歳
うまくいかないヨガの表現がかわいらしくて好き。ところで、ヨガに誘われていることから自然に語り手を「頼子さん」と同性だと思って読んだのだが、そう読まない人もいるだろうか。

以上、「首振りの極意」全篇でした。前章にひきつづき、いくつか日常からファンタジーやSFにひょい、と飛びこえてしまう作品があり、予想外で楽しかった。ところで自分が「はとのなかの」までの感想を書いていた本日12月3日13時から、主宰・編集の藤井佯さん、執筆者のおひとり鯨井久志さんによる本アンソロジーの感想会が旧Twitterのスペースにて開催されました。自分は前半1時間半ほどで、つぎの用事のため離脱しましたが、まだ書けてないところに追いつかれずかえってよかったかも。

かくなるうえはのこり二章分をしあげてから聞きたい、でもたぶん時間がかかるから先に聞いちゃうのもあり、と揺れるこころです。

「日常」章が終わり、ここから鳩は「神話」「奇想」と羽ばたいてゆきます。